2050年までにCO₂排出実質ゼロをめざして
カーボンニュートラル社会の実現は、もはや一国の課題ではありません。その実現手段として世界各地で導入が進む再生可能エネルギー(再エネ)は、脱炭素の切り札として期待されています。
しかし今、私たちは大きな矛盾に直面しています。それは「クリーンな電力ほど、供給が不安定になる」という事実です。
現状、日本の再エネ比率は2割程度ですが、2030年ごろには4割弱、2050年ごろには5割を超えると見込まれており、再エネの普及に伴って、主に2つの課題が指摘されています。1つ目は、太陽光や風力といった再エネは、天候や時間帯に大きく左右されるため、発電出力が不安定になりやすいこと。安定した電力供給には需要と供給のバランスを保つための調整力が必要になります。2つ目は、再エネが増えると電力網にレジリエンス(回復力)が不足することです。規模の大きい火力、原子力などの発電所が事故などで停止して需給バランスが崩れると、慣性力を持たない再エネ電源だけでは、瞬時の需給バランスの崩れに対して周波数を安定させる力が不足し、大規模停電のリスクが高まります。
このように、クリーンな電力が広がるほど、その“安定供給をいかに支えるか”が問われており、電力網のレジリエンスはこれからの再エネ社会において注目されるべきキーワードとなっています。
技術革新が導き出す答え:GFM Inverterとは
この電力網のレジリエンスという課題に正面から向き合い、次世代の電力供給を支える鍵として注目されているのが「Grid Forming (GFM) Inverter」です。
GFM Inverterは、太陽光や蓄電池といった再エネ電源でありながら、従来の火力発電機のように“慣性力”を疑似的に作り出すことができるインバータです。これにより、電力の周波数や電圧の乱れを抑制し、系統全体の安定化に貢献します。
特に注目すべきなのは、GFM Inverter自体が“電力網(グリッド)の一部”として機能する点です。これまでの再エネは、既存のグリッドがあってはじめて接続可能な“従属的な存在”でしたが、GFM Inverterは自らグリッドを形成(フォーミング)し、他の電源と協調できる自律性を持ちます。
従来の電力システムは、大規模な発電所が系統全体の電圧や周波数を安定させるという“中央集約型”の仕組みに依存していました。しかし、脱炭素化の流れによる変化や大型火力発電の退役などでこの構造が崩れ、分散型の再エネ電源が増えることで、グリッド全体の安定制御が難しくなるという課題があります。
この“自らグリッドを形成できる”という特徴は、従来の電力モデルが抱えていたこうした課題を克服する重要な進化です。さらには、災害などで停電が発生した際、GFM Inverterによって構成されたマイクログリッドが、地域や施設単位で自律的に電力供給を継続することも可能になります。
習志野事業所から、世界に向けた実装モデルを
このGFM Inverterをいち早く実装したのが、日立産機システムの習志野事業所(千葉県)です。2025年4月から稼働を開始したこの実装設備は、世界に先駆けた「持続可能でレジリエントな電力供給」のモデルケースとして注目されています。
構内には81.9kWの太陽光発電設備と直流給電網が構築され、発電された電力はGFM Inverterにより安定した交流として、当社製の給水ポンプや防災放送システムへ供給されます。GFM Inverterは3並列構成で、発電量の変動があっても自立的に周波数を制御し、構内に“交流マイクログリッド”を安定的に形成しています。
さらに、直流給電網によりエネルギー変換ロスを抑えて給水ポンプを稼働しており、余剰電力は蓄電池に充電するほか、パワーコンディショナ(当社製)や事業所内の商用系統とも連系電力を無駄なく活用することで、年間39.2t-CO₂の削減が見込まれています。
このように、再エネの安定化・災害時対応・自立型マイクログリッドを統合的に、実運用レベルで構築している事例は世界的にも少なく、習志野の設備は将来の地域分散型エネルギー社会を見据えた「実用モデル」として、注目を集めています。
また、環境省の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業に採択されたことからも、この構成の社会的意義と先進性が高く評価されていることがわかります。
エネルギーの未来を「現場」から体感する
再生可能エネルギーの未来を支えるためには、「発電量を増やすこと」だけでは足りません。
“いかに安定的に、持続可能に届けるか”こそが、これからの技術革新の中心になるべき問いではないでしょうか。日立産機システムが実現した、次世代の電力供給インフラ——Grid Forming (GFM) Inverterは、その一つの答えを提示しています。
▼GFM Inverterの詳細や習志野事業所での取り組みは、以下の紹介映像にてご覧いただけます。