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企業がサステナビリティへの取り組みを公表する際、その多くは「目標」という形を取ります。2030年までのカーボンニュートラル、2030年までの埋立廃棄物ゼロ、将来を見据えたネイチャーポジティブの目標。こうした目標は確かに重要です。
しかし、目標そのものが風景を変え、製品のライフサイクルを延ばし、生態系を再生するわけではありません。
宣言と成果のあいだには、ゆっくり進み、目に見えにくく、測ることの難しいプロセスがあります。人と関係を築き、生態系を回復させ、成果がまだ十分に見えない段階でも関与し続けるという、時間のかかる取り組みです。

米国インディアナ州ミシガンシティに本社を置く日立グローバルエアパワーでは、こうしたサステナビリティの取り組みが、現在進行形で形になりつつあります。変化の中には、地表の下で静かに進んでいるものもあれば、その環境効果が明確になるまでに何年もかかるものもあります。

それらを総合的に捉えることで、サステナビリティが現場でどう形作られるのかが見えてきます。それは完成された成功事例ではなく、信頼、責任ある管理、そして継続性に支えられた取り組みの積み重ねなのです。

足元の大地から始める

2025年4月、日立グローバルエアパワーは、産業メーカーとしては少し珍しい決断を発表しました。敷地内の芝生の大部分を「刈らない」ことにしたのです。
5年計画のもと、ミシガンシティ本社キャンパスにある約7エーカーの通常の芝生を、在来種のプレーリー(草原)生息地へと転換しています。初年度だけで、芝生エリアの約85%が移行されました。

ハイライトされているエリアが在来植物再生プロジェクトの対象区域。

この取り組みの環境的な意義は、見た目の変化にとどまりません。復元されたエリアでは芝生の管理が不要となり、関連する温室効果ガスの排出量は約94%削減される見込みです。また、復元エリアでは散水(かんがい)も不要になります。在来のプレーリー植物は深く広がる根のシステムを形成し、水の吸収性を高めると同時に、花粉を媒介する昆虫や他の在来生物の生息地を提供します。これは従来の芝生では果たせない機能です。

画像: 芝生除去が進められた後、ミシガンシティ本社で立ち入り制限エリアと案内サインが設置された様子。プレーリーの定着に向けた重要なステップとなっている。

芝生除去が進められた後、ミシガンシティ本社で立ち入り制限エリアと案内サインが設置された様子。プレーリーの定着に向けた重要なステップとなっている。

このプロジェクトは、ラポート郡土壌・水資源保全地区(LaPorte County Soil and Water Conservation District)との強固なパートナーシップによって実現しました。同地区は、技術的な専門知識、外来種管理の支援、そして「クリーン・ウォーター・インディアナ」プログラムを通じた助成金を提供しています。

この取り組みは、日立グローバルエアパワーが掲げる3つの環境重点分野――脱炭素、資源効率化、そして日立が現在「ネイチャーポジティブ」と位置付ける方向性――のすべてにつながっています。
2025年には既存の芝生を除去し、初雪の直前に「ウィンターソーイング」と呼ばれる手法で在来プレーリーの種子を播種(まき付け)しました。種子を寒冷条件にさらすことで自然な発芽サイクルを促す方法です。

現在、プレーリーは復元の専門家が「sleep, creep, leap(静かな定着期、緩やかな進展期、成長が顕在化する段階)」と呼ぶ定着段階にあります。この初期段階では、進展の多くは地中で起こります。根系が発達し、在来種が徐々に定着し、生態的なバランスが少しずつ変化していきます。これらが地表からはっきり見えるようになるまでには、数年を要することもあります。
生育期を通じて、復元チームは繰り返し現地を訪れますが、それは「完成した姿」を評価するためではありません。時間をかけて意味を持つ、より緩やかな定着の兆しを観察するためです。
モニタリングは、ラポート郡土壌・水資源保全地区が担当し、春の終わりから11月中旬まで、植栽作業や順応的管理のタイミングに合わせて定期的に実施されます。短期的な見た目ではなく、各段階に応じた適切な指標が追跡されています。

2026年には、プロジェクトは新たな段階に進みます。長期的な生態系の強靭性をめざす「オーク・サバンナ」の復元です。コンテナで育成された20本のオークを植栽して、林冠構造(樹木の高さや枝葉の重なり方によって形成される森の立体的な構造)を再構築した後、生物多様性と土壌の健全性を高めるため、小型の苗を用いた植栽を行います。11月中旬まで順応的管理が続き、秋の刈り込みも定着を支えるために実施される予定です。

画像: 在来種のオーク植栽を進める様子。あわせて植えられたライ麦は、在来植物が根づくまでの間、土壌流出を防ぎながら初期成長を支える役割を果たしている。

在来種のオーク植栽を進める様子。あわせて植えられたライ麦は、在来植物が根づくまでの間、土壌流出を防ぎながら初期成長を支える役割を果たしている。

このプロジェクトは単なる景観の再設計ではなく、産業用地が時間をかけて何に生まれ変われるのかという、新しい解釈を示すことができます。そしてそれは、企業単独の専門性ではなく、地域の保全パートナーの継続的な関与によって築かれる生態系管理のモデルでもあります。

生態、文化、地域が交差する場所

2つ目の取り組みは、この考え方をさらに広げるものです。
2026年1月、日立グローバルエアパワーは、インディアナ州ポタワタミー公園内にある国際友好植物園(International Friendship Botanic Gardens)での5年間の森林再生プロジェクトを発表しました。対象は、ミシガン湖沿岸生態系に属する約8.5エーカー(約3万4000平方メートル)のオーク主体の森林です。

画像: Friendship Botanic Gardensで進む森林生態系復元の様子。アムールハニーサックルなどの外来種を重点的に除去することで、これまで光が届かなかったエリアに光環境を取り戻し、在来種の下層植生の回復を支えている。

Friendship Botanic Gardensで進む森林生態系復元の様子。アムールハニーサックルなどの外来種を重点的に除去することで、これまで光が届かなかったエリアに光環境を取り戻し、在来種の下層植生の回復を支えている。

生態学的な目標は具体的かつ実務的です。北米の森林生態系で問題となっている、ガーリックマスタードやアムールスイカズラといった外来種を除去することで、これまで遮られていた在来植物群落への日光が届きやすくなります(光の透過率は30〜40%の改善を見込んでいます)。また、若い世代のオークが自然に育たない「欠落世代の危機」にも対処できます。

同時に、このプロジェクトにはもう一つの側面があります。それは、企業の外に広がる対話と協働を通じて形づくられたものです。

森林再生に日本の文化的原則を取り入れるという構想は、ラポート郡土壌・水資源保全地区のMS4ディレクター兼郡保全官であるポール・ヴィカリ(Paul Vicari)によって提案されました。当初からめざされていたのは、その土地にふさわしく、森と深く向き合う体験の場となるような自然な形の再生林です。このコンセプトは、日本の「森林浴(Shinrin-Yoku)」に基づいており、また、「共生(Kyōsei)」や「間(Ma)」といった概念も参照されています。

画像: ミシガンシティ本社キャンパスの復元プロジェクト現場に集まったチームメンバー。後列中央は、森林再生構想を提案したラポート郡土壌・水資源保全地区のポール・ヴィカリ(Paul Vicari)。前列左から、カトリーナ・ソーシエ(Katrina Saucier)、ヴェリカ・ゴラボスキ(Velika Golaboski)、ラミロ・アギラー(Ramiro Aguilar)。

ミシガンシティ本社キャンパスの復元プロジェクト現場に集まったチームメンバー。後列中央は、森林再生構想を提案したラポート郡土壌・水資源保全地区のポール・ヴィカリ(Paul Vicari)。前列左から、カトリーナ・ソーシエ(Katrina Saucier)、ヴェリカ・ゴラボスキ(Velika Golaboski)、ラミロ・アギラー(Ramiro Aguilar)。

この発想が郡の保全専門家から生まれたこと自体が、パートナーシップの強さを示しています。双方が単独では提供できない専門性と資源を持ち寄る関係です。日立グローバルエアパワーは、前身事業を含め60年にわたり、ミシガンシティで事業を続けてきました。日本にルーツを持つ日立グループの一員です。一方、国際友好植物園は、約100年にわたり地域の文化的な架け橋として機能してきました。日本の環境思想と中西部の生態系再生が融合することは、単なるデザイン上の選択というよりも、重なり合う歴史の自然な現れであるといえます。

発表以降、地域の反響は大きく、6つの地元メディアで取り上げられ、ラジオ局「インディアナ105」(105.5FM)でも紹介されました。関心は、プロジェクト関係者の枠を超えて広がっています。

2026年夏までに一般向けの散策路と解説サインが整備される予定です。再生によって、春に咲く在来野草の休眠種子が活性化されると見込まれていますが、森林の回復がそうであるように、その定着には時間がかかります。

製品の寿命はどこで終わるのか

3つ目の物語は、復元された自然環境ではなく、産業用リマニュファクチャリング(再製造)工場の中で展開されています。
日立グローバルエアパワーを支えるリマニュファクチャリングパートナー、SRC Industrial Corpでは、一部の可搬式空気圧縮機部品が、すでに「第4ライフサイクル」に入っています。再生され、再び稼働し、さらに再生される――それを何度も繰り返しているのです。
「第4ライフサイクル」とは、回収された製品が実用可能な状態で使用された回数を指します。第1ライフサイクルは新品として製造・販売された状態、第2〜第4ライフサイクルは、回収・再生後の使用を意味します。

実際には、メインフレーム、エアエンド、ブラケット、コントローラー、熱交換器、燃料タンクなど、製品価値を保持する主要な構造・機械部品が対象となり、すべてOEM基準の検査・試験を通過します。一方、フィルター、シール、ガスケット、ベルトといった消耗・摩耗部品はライフサイクルのカウント対象外となり、再製造のたびに新品のOEM部品に交換されます。これにより、性能・安全性・保証において新品と同等の品質が確保されます。

これは、抽象的な概念としてのサーキュラーエコノミーではなく、運用としての継続性です。食品加工、医薬品、製造業などを支える圧縮空気システムそのものが、「交換」ではなく「長寿命化」を前提に管理されています。製品ライフサイクルを延ばすことで、新たな原材料需要と廃棄物の発生を抑えつつ、各段階でのOEM検査によって性能を犠牲にしない仕組みが維持されています。

画像: これは「コア(core)」と呼ばれる使用済みポータブル空気圧縮機の一例。通常であれば製品寿命を迎え、スクラップ金属としてリサイクルされる段階にある。しかしSRCでは分解後、高価値部品を保持・再生し、リマニュファクチャリングを通じて新たなライフサイクルへと戻されている。

これは「コア(core)」と呼ばれる使用済みポータブル空気圧縮機の一例。通常であれば製品寿命を迎え、スクラップ金属としてリサイクルされる段階にある。しかしSRCでは分解後、高価値部品を保持・再生し、リマニュファクチャリングを通じて新たなライフサイクルへと戻されている。

日立産機システムにとってもまた、メンテナンスやモニタリングからリサイクル、リマニュファクチャリングまで製品ライフサイクル全体を支えるこのパートナーシップは、単なる効率化施策ではありません。産業における「価値」を時間軸でどう捉えるかという、より大きな転換を映し出しています。
もし空気圧縮機の部品が第4ライフサイクルに到達できるとしたら、「製品の有効寿命はどこで終わるのか」という問いは避けられません。その答えは、製品そのものよりも、それを支えるメンテナンス、専門性、パートナーシップの仕組みによって決まるのかもしれません。

共通するもの

プレーリーの復元。回復途上の森林生態系。第4ライフサイクルに入る産業部品。異なる領域・課題に挑むこれらを結びつけているものは、個々の成果以上に目に見えにくいものです。
3つすべてに共通しているのは、時間をかけて築かれた長期的な関係性です。ラポート郡土壌・水資源保全地区は、単なる資金管理者ではなく、技術的パートナーとして復元事業全体に関わり続け、植物園プロジェクトでは最も特徴的な構想の発案者でもあります。国際友好植物園は、長年にわたる地域からの信頼と文化的連続性を提供しています。SRC Industrial Corpは、産業システムを繰り返し再生し、現場に戻すための運用面での信頼性を支えています。

これらの関係はいずれも短期間で築かれたものではなく、成果が保証されているわけでもありません。5年規模のパートナーシップを維持するうえで最も難しい課題の一つは、リーダーシップの交代です。知見が失われ、優先順位が変わり、信頼を一から築き直さなければならない局面もあります。それでも、根底にある関係性の強さが、その移行期を乗り越える力になります。

この取り組みを支えているのは、結果がはっきり見える前からプロセスに関わり続けようとする人々の存在です。これらの取り組みが評価され、2026年4月、ミシガンシティ・サステナビリティ委員会から、「Caught YOU Being Green(環境に配慮した行動に対する評価)」賞を受賞しました。地域社会と深く結びついていることが正に評価された結果でした。
その意味で、サステナビリティは「信頼の速度」で進んでいきます。

日立が掲げる、バリューチェーン全体で2050年度までのカーボンニュートラル達成を含む日立の長期環境ビジョンは、非常に大きな挑戦です。しかし、ミシガンシティから生まれているこれらの取り組みは、実効性のあるサステナビリティが、宣言よりもむしろ「継続」によって築かれることを示唆しています。

1エーカーずつ、1つのライフサイクルずつ、1つの関係性ずつ。
そして何より、最終的な成果がまだ完全には見えていなくても、続けていく意志によって。

参考文献

画像: ミシガンシティで芽吹く「信頼」とサステナビリティの形

Katrina Saucier

日立グローバルエアパワー
Director of Sustainability

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