製造現場には、長年「捨てるもの」として扱われてきたエネルギーがあります。
空気圧縮機(コンプレッサー)が圧縮空気を生成するとき、その投入エネルギーの大半は熱として放散されます。塗装ラインや溶接工程でも、工程を支えるインフラ設備は常に熱を吐き続けています。工場が稼働している限り、廃熱は止まりません。
問題は、この熱を「損失」と定義するか、「未回収の資産」と定義するか、という点にあります。
『節約』から『循環』へ。変化した省エネの問い
これまでの工場の省エネといえば、照明のLED化、空調の効率化、設備の稼働時間管理といった「使用量を減らす」アプローチが中心でした。いずれも重要な取り組みです。しかし、カーボンニュートラルの目標が具体的な数値を持ちはじめ、Scope1・2の排出量管理が経営課題になったいま、製造業が向き合うべき問いは変わり始めています。「どれだけ節約したか」から、「どれだけ循環させたか」へ。
エネルギーを減らすだけでなく、発生したエネルギーを再び工場の中で使用するという発想の転換が、次世代の工場インフラ設計の核心になりつつあります。
空気をつくる機械が、熱もつくりだす
空気圧縮機は、製造現場を支える代表的なユーティリティ設備です。製造現場の至るところで使われる圧縮空気を供給するこの機械は、大型工場では複数台が並んで24時間稼働していることも珍しくありません。
圧縮機のエネルギー収支を分解すると、ひとつの事実が見えてきます。空気圧縮機が消費する電力のうち、実際に圧縮空気として現場で使われるエネルギーは全体の10〜20%に過ぎないとされています。残りの80〜90%以上は熱エネルギーとして発生し、多くの場合そのまま大気へ放出されます(米国エネルギー省関連資料 より)。
これは「仕方のない損失」ではありません。技術的には、この熱を回収して温水として再利用することが可能です。洗浄工程での湯水、冬季の暖房、給湯——工場内にはむしろ「熱の使い道」が豊富に存在します。設備がすでに熱を持っているなら、それを活かさない理由はないはずです。

設計段階から「循環」を組み込む思想
廃熱回収がなぜ進まなかったか。その理由のひとつは、「後付けでは難しい」という現実です。既存の配管・設備との統合、熱の使用先との距離、システム制御の複雑さ…これらが導入のハードルになってきました。
しかし、工場を新設・拡張するタイミングにおいては、話が変わります。建設前から廃熱回収を設計思想に組み込めば、配管ルートもシステム統合も、はるかに合理的に設計できます。
重要なのは、廃熱回収を「省エネ設備の追加」ではなく「工場インフラの設計哲学」として捉えることです。エネルギーを使い終わったら捨てるのではなく、工場の中で循環させる。この発想を設計段階から持つかどうかが、工場の環境性能に大きな差をもたらします。
90%以上の回収が示すもの
空気圧縮機から発生する熱エネルギーを90%以上回収し、工場内の温水として再利用する——これは実際に達成されている数字です。大型トラックの製造工場における実例として、日立産機システムの温水回収システム(SDS)がこれを実現しています。
この数字が意味することは、単なる省エネ効果の話ではありません。「廃熱は損失である」という前提が、技術的には成立しないことを示しています。捨てられていたエネルギーを回収して再利用できるなら、損失にはなりません。
工場の「見えないコスト」を再評価する
カーボンニュートラルへの対応が迫られるなか、見落とされがちなのが、工場内ですでに発生しているエネルギーです。廃熱回収は、それを活用するアプローチとして、投資対効果の観点からも見直しが進んでいます。
自社工場の空気圧縮機が、年間でどれだけの熱エネルギーを大気に放出しているか——その数字を
把握している製造業担当者は、まだ多くないのではないでしょうか。しかしその数字こそが、次の環境投資の起点になる可能性があります。
廃熱を資産として捉え直すこと。それは工場の設計思想を変えることであり、製造業のサステナビリティ戦略を根本から問い直すことでもあります。
私たちは、廃熱を損失ではなく資産と捉える設計思想が、工場インフラの現場における新たな標準になることをめざしています。
出典
HIESの温水回収システム(SDS)および空気圧縮機ソリューションについては、こちらからご覧ください。
日立産機システムの空圧機器の詳細については、こちらをご覧ください。



