サステナビリティにおける「信頼性」とは
サステナビリティの議論において、「信頼性」が主題になることは多くありません。
しかし重要なインフラが機能不全に陥ったとき、その影響は製造現場にとどまりません。納期の遅延、契約上の摩擦、そしてサプライチェーン全体における信頼の揺らぎへと波及します。
納期の遅延は契約上の責任問題へと発展し、取引関係に緊張をもたらします。そして一度揺らいだ信頼は、長年築かれてきた取引先との関係性を静かに変えていきます。
サステナビリティレポートは、企業の意欲や目標を数値で示すことができます。しかし、その基盤となるシステムが不安定であれば、どれほど精緻な数値も、脆弱な土台の上に立っているにすぎません。
この脆さは、戦略文書の中に現れることはほとんどありません。それが露呈するのは、製造現場においてです。
精密製造の現場では、信頼性は多くの場合目立たぬかたちで稼働し続けるシステムの中に組み込まれています。たとえば圧縮空気は、安定して供給されているかぎり、ほとんどの場合意識されることがありません。しかし不安定さが生じた瞬間、生産計画、品質保証、運用管理のあらゆる面でその重要性が強く認識されることになります。
「安定」は設計から
こうした問題は、決して仮定の話ではありません。シンガポール エプソン インダストリアル(Singapore Epson Industrial)は、電子部品向けの精密電気めっき工程を担う工場です。同社では日立の空気圧縮機(コンプレッサー)へ段階的に移行する以前は、ほぼ毎月のようにコンプレッサーの故障が発生していました。
生産が停止に至ることはまれでしたが、運用の安定性は確実とはいえませんでした。圧力調整やトラブルシューティングが日常的に発生し、将来に向けた改善よりも緊急対応計画が優先されるようになっていました。
製品の性能を左右する表面品質が重視される精密部品製造において、圧縮空気は単なるインフラではなく、品質と生産継続性を支える基盤です。
繰り返し発生していた問題は、表面上は保守・メンテナンスの課題に見えていました。しかし実際には、システム設計そのものの構造的制約が表面化していたのです。
不安定さは技術的に中断を引き起こすだけではなく、組織の振る舞いにも影響を与えていきました。

継続的な停止リスクにさらされて業務を行うと、チームの関心ごとは仕事の最適化から問題の封じ込めへと移行していきます。エンジニアはトラブル対応に追われ、マネージャーは状況報告に終始するようになります。長期的な改善へ向けるべきエネルギーが、短期的な復旧対応のために費やされていきます。こうして、脆さは常態化していくのです。
システム構造における矛盾の是正
今回の対応は、サステナビリティの施策ではなく、「安定性を確保する」という意思決定として始まりました。日立の担当者と緊密に連携しながら、同施設はシステム全体の再評価に着手しました。
単なる機器更新ではなく、冗長構成や圧力条件を見直しながらシステム構成を段階的に再設計しました。インバータ制御を導入することで、流量と圧力を生産ニーズにより精緻に適合させました。
これにより、いままで毎月のように発生していた故障は解消され、運用上の不確実性は低減。安定性は予測可能なものになりました。
従来の構成に内在していた非効率性も同時に是正されました。高圧での運転後に減圧する従来の方式は、本質的にエネルギー損失を生み出していましたが、実際の工程要件に合わせて圧力水準を整合させることで、不要な絞り込み運転への依存が低減したのです。

システム構造が実際の運用と整合したとき、効率は特別な改善施策の成果としてではなく、構造的な無駄が解消された結果として現れます。システム構成と実際の運用が整合したことで、エネルギー効率も改善されました。
エネルギー性能や環境配慮に対するグループレベルの期待が高い企業にとって、この整合は重要な意味を持ちました。
設計で支える「揺るぎない基盤」
サプライチェーンが国境を越えて広がり、納期スケジュールが高度に連動する産業において、業務の安定性は単なる内部指標ではありません。それは競争優位につながる要素です。
通常の業務において、お客さまはコンプレッサーの存在を意識することはありません。しかし彼らは、納品の信頼性、品質の一貫性、そしてパートナーシップとしての信頼という形で、その成果を体験しているのです。
インフラが確実に機能すれば、信頼は着実に積み上がっていきます。やがてその信頼は、市場における確固たるポジションへと転化します。この意味で、安定性は単なる技術的選好ではなく、産業エコシステム全体に対する、責任の表明ともいえるでしょう。

サステナビリティはしばしば、目標・コミットメント・将来に向けた宣言といった「意欲」の観点から語られます。しかし、志だけでは産業を支えることはできません。それを支えるのはインフラです。インフラが安定して機能することで、信頼性は積み重なり、揺るぎないものとなっていきます。
信頼性はサステナビリティの前提条件です。そしてそのサステナビリティを体現する、エネルギー効率の向上、廃棄物の削減、責任ある資源利用は、基幹システムが予測可能な形で稼働するときに、はじめて実現可能となります。
「揺るぎない」インフラを設計することは、サステナビリティへのコミットメントそのものにつながります。産業のリーダーにいま問われているのは、「サステナビリティを追求するかどうか」ではありません。その基盤となるインフラが、果たして“支えるように設計されているかどうか”なのです。

エグゼクティブ・スーパーバイザー:Lok Shou Mun、ファシリティ部門マネージャー:Choong Mun Choon、シニア・プリンシパル・エンジニア:Li Guojin(左から)

Singapore Epson Industrial Pte Ltd. (Plating Plant)
同社は、航空宇宙・自動車・電子機器・医療機器・半導体など幅広い業界向けに、多様なめっき加工や機能性コーティングを提供しています。また、排水再利用や薬品リサイクル、太陽光発電の活用など、効率的で環境に配慮した持続可能な事業運営をめざしています。
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